耐風設計法

 


1.風が橋に及ぼす影響

構造物は風の作用によって時間平均的な荷重や,不規則変動荷重・周期的荷重といった振動や疲労の要因となる荷重を受けることになる.

ここでは,これら風の作用によって構造物に発生する振動等を分類し,順に概説する. はじめに,「風による振動現象の概説」として風によって発生する振動を力学的に分類し,各種振動現象を概説する.次に,「部位別風による振動現象の概説」と題し,設計部位別にみた振動現象の説明を行う.

 

 

1.1 風により発生する現象の概説

  風が構造物に及ぼす影響は,@風圧による飛散・転倒・変形などと,A変動空気力による構造物全体あるいは部材ごとの振動がある.被害の程度としても部材溶接部の破損から旧タコマ橋のような構造物全体の崩壊といった甚大なものまである.また,構造上の問題の他に, 気流の収れんなどによる車両走行への影響や風切り音などの音の作用も風により発生する現象の1つである.

  ここでは,風による作用を現象面から分類し,順に概説する.風による振動現象を発生機構に着目すると図−1のように分類できる.

 

 

図−1  風による作用の分類

 

1)静的作用

a) 風荷重により生じる静的な変形

 構造物は,風荷重を受け変形し,部材にはこれによる応力が発生する.時間平均風速による静的な変形を風荷重による静的な変形と呼ぶ.静的空気力は風向方向の力である抗力,風向と直角で鉛直方向の揚力,そしてトルクに対応する空力モーメントの三成分で評価される.

 静的空気力は,空気力を受ける側の形状や風との相対角度により大きさが変化するため,風荷重が支配的な荷重となる構造物では注意が必要である.

 耐風設計では,後述のガスト応答を含め風荷重として扱っている.

 

 

図−2  風により構造物に作用する空気力

 

b) 静的空気力による不安定現象(横座屈,ダイバージェンス)

 以下に上記2つの不安定現象の概略を示すが,両者ともに,通常の設計上の配慮をした場合には発生する可能性は低いと言われている.

・横座屈

 2軸非対称の構造が強軸まわりの曲げを受ける場合,曲げモーメントが小さい間はその面内で撓んでいくが,曲げモーメントがある限界値に達すると急激に弱軸まわりの曲げと中心軸まわりのねじれが連成して変形が大きくなる.この現象を横座屈と呼ぶが,ある特定の構造特性と空気力との組み合わせにより発生する場合がある.

・ダイバージェンス

  風荷重によるねじれ変形が循環的に風荷重を増加させる場合,構造物はある風速を超えると急激に変形が大きくなる.これがダイバージェンスである.

図−3  風による静的作用の概念図

 

2)動的作用

a)  ガスト応答

 作用する風の乱れにより強制的に誘起される不規則な振動である.振動の大きさはほぼ風速の2乗に比例して発達する.また,気流の乱れ強さの影響は,応答振幅が増大することであり,橋桁の場合はごく例外的に振動現象として初通過破壊,疲労照査が必要な例があるが,ガスト応答のうち支配的な水平たわみガスト応答の効果は,静的に作用する平均的な空気力の効果と併せてガスト応答係数として風荷重の一部に取り込まれている.鉛直たわみやねじれのガスト応答の寄与は水平たわみガスト応答や他の荷重の寄与に比べ通常は小さく,考慮する必要は無いことが多い.

 

b)  渦励振

 桁の上下面や下流側縁端部で剥離した流れが桁の振動と同調して振動することにより発生する振動である.橋桁の渦励振についての共通した応答特性は,比較的低風速時の限られた風速範囲で鉛直たわみ或いはねじれ振動として発生し,ある振幅以上には発達しないことである.一般には,渦励振についての照査として,初通過破壊,使用性の問題,疲労破壊の有無といった照査項目が挙げられている.

 

c)       発散振動(ギャロッピング,フラッタ−)

ある限界風速を超えて一度発生すると,風速のわずかな増加により急激に振動応答が大きくなる発散的な振動である.詳細にはそれぞれ微妙に異なるものの,これらの現象を特徴づける空気力は,共通して,物体の振動変位と速度と風速により表現される自励的なものである.

発散振動が発生すると直ちに破壊が起こる危険性が高いため,これらの現象が設計風速内で発生しないことの確認がなされる必要がある.

 


 


図−4  風による動的作用の概念図

 

 

2.静的設計

 橋梁の各部位に作用する空気力は,抗力,揚力,空気力(空力)モーメントからなり,それぞれ次式で定義される.

   P=(1/2)・ρ・U・C・A

   P=(1/2)・ρ・U・C・B

   M=(1/2)・ρ・U・C・B

    ここに,

     P:抗力

     P:揚力

     P:空力モーメント

     ρ :空気密度

     U :風速

     A :物体の空気流直角面に対する投影面積

     B :物体の空気流方向の外郭幅

     C:抗力係数

     C:揚力係数

     C:空力モーメント係数

 風荷重を考える場合には,上記のPにガスト応答係数を乗じた値を用いる.ガスト応答係数は,対象橋梁の架橋位置の周辺環境に応じて変化する.抗力係数Cは,対象とする断面の形状に応じて変える必要がある.また,吊橋や斜張橋の塔については風速の鉛直方向(高度)分布を考慮する場合もある.

 実際の設計では,動的なガスト応答の効果を上述したように静的な荷重として扱い,構造物の解析モデルに載荷する.

 得られた風荷重による結果が想定していた応答値よりも大きい場合には,

1)        風荷重に対する構造物の抵抗・強度の増加

2)        風荷重の低減

    受風面積の低減

    空気力係数の小さな断面形状に変更する

等の対策を行う必要がある.


3.風に対する制振設計

 橋梁のような構造物が外乱をうけて揺れ始めたとき,振動エネルギーを吸収し許容範囲内に振動をコントロールするのが「制振設計」である.これを概念的に示すと次のようになる.

 

      【入 力】  →  【構造物】  →  【応 答】  <  【許容値】

                                   

3.1 制振設計の考え方

 構造物の振動の仕方は外力(供給されるエネルギー)により差があるが,風による振動は,地震等に比べて継続時間が長くエネルギーの入力が緩慢であるという特徴がある.また,図−5に示すように,地震による構造物の応答は,強制振動としての応答であるが,風による構造物の応答は,構造物自身の応答によって新たな空気力が発生し,さらに構造物の振動を増幅させるといったフィードバック回路を繰り返しながら,空気力と構造系との力学バランスが生じたところで最終応答となるといった違いがある.また,地震の場合,入力される地震力は,構造物の種類に無関係であるが,風の場合は断面形状を含む構造ごとに空気力が変化することが挙げられる.

図−5  風による構造物の振動と地震による構造物の振動の概念図

 

  このように,風による振動の制振を考える場合には,空気力に関して理論的な展開が困難であることもあって,風洞実験による実験・試験を行わざるを得ない状況にあり,制振設計の基本的な流れは図−6のようになる.

図−6  制振設計の基本的な流れ